鮎川哲也 「黒いトランク」 (創元推理文庫)

汐留駅に届いた受取人不明の貨物便──黒い衣装トランクの中から腐乱死体が発見された。
捜査の過程で浮かび上がった容疑者には鉄壁のアリバイが…。巨匠・鮎川哲也 長編デビュー作 初期名作。
最初の刊行が昭和31年というから、えーと、1956年、50年前の作品か。
民間航空機が規制され長距離移動が鉄道の一択であった時代の本格・鉄道ミステリ。
今はもうモノクロの記録映像でしか見ることが出来ない”かつてあった日本の風景”。鉄道路線や駅を中心として描写されるその光景が何となくノスタルジックな感傷を呼び起こしてくれる。
警察の捜査と推理を丹念に書き連ねていくだけの、ある意味ストイックすぎる展開にも関わらず、最後まで面白く読めたのは作品の纏う雰囲気の良さなのだろうな。
二つのトランクの移動と鉄道を利用したトリックの合わせ技も実に素晴らしい。


他作品感想:「りら荘事件」

黒いトランク (創元推理文庫)

黒いトランク (創元推理文庫)