佐々木丸美 「崖の館」 (創元推理文庫)

優しくて聡明だった千波ちゃんが墜死してから二年。館に集ったいとこたちの間で再び事件が発生する。千波ちゃんの死の真相は…。
周囲の兄・姉たちを憧れのまなざしで見上げる少女の語り口はリリカルなれど、それを通して描かれるものが……手強い。
互いへの好意と尊敬で結びついていた共同体の穏やかで幸せな日々、その中に潜んでいた狂気。
芸術や知性というものへの傾倒、青臭いと評すには偏執的なようにも思える心性、嫉妬や悪意だけじゃなく彼等の純粋さまでもがある種の情念の渦となって読み手を襲う。これは実に手強い。
読み終わってみればちゃんと《館もの》ミステリとしての形をなしていたことに気付かされるが、謎に満ちた事件が解き明かされたときの爽快感というのはそこには無かった。
むむむ、なんて厄介な…。
77年刊行。新本格以前──あ、そうか、笠井潔「バイバイ、エンジェル」と並べればいいのかも。

崖の館 (創元推理文庫)

崖の館 (創元推理文庫)