「キリサキ」 田代裕彦 (富士見ミステリー文庫)

いったん死んだ”俺”は、不思議な案内人の導きで生き返ることに。
だが、目覚めた”俺”がはいっていたのは霧崎いづみという少女の身体。
とりあえず霧崎いづみとして暮らしはじめた主人公の周囲で、連続殺人魔”キリサキ”による殺人事件が起こる…。

「平井骸惚此中ニ有リ」の作者の新作は、人格転移のような特殊設定とわけあり主人公の視点で語られる連続殺人鬼のお話。
主人公の”俺”が読み手の感情移入を阻むような歪さをもっていて、自殺やいじめや猟奇殺人を扱っているので話の雰囲気が暗い。
富士ミスにしてはLOVEも萌えもありゃしないので、そのへんの楽しみは皆無。
感情移入できそうなキャラってナヴィくらいかなあ。ああ、刑事さん2人組も結構いい味出してるか。
ただ、そのぶん作品に漂う不穏な気配やサスペンス展開は雰囲気があって良い。しかも、ミステリとしてもなかなかの出来。
いろいろ考えながら読んでいたにも関わらず、こちらの予想を軽く上回る捻った真相に正直びっくり。
ややー、これは良いですよー。解決編へ向けての伏線の張り方も上手いものだし、構成の妙と謎解きのもたらすサプライズには感心させられちゃいました。うん、とても面白かった。
「平井骸惚」とはまた違った形のライトノベル・ミステリの秀作。