「ユルユルカ 薬屋探偵妖綺談」 高里椎奈 (講談社ノベルス)

薬屋シリーズ11作目。高遠刑事視点(人間サイド)の第1話、リベザル視点(妖サイド)の第2話、
クロスオーバーしている2つの話の結末となる第3話からなる作品。

第1話の高遠の親子関係の話も悪くはないんだけど、わたしにとってはやはり第2話のリベザル視点の話がメイン。
「人間は必ず裏切る」というクルド、人間に紛れて生きながらもとらえどころのない秋、
人間と妖が仲良く暮らしていくことができると信じていたいリベザル。
クルドの言葉に少なからず傷つき、秋があらぬ疑いがかけられたことに憤り、
それでも優しさだけは決して忘れない、ひたすらに純粋でひたむきでまっさらなリベザルのかわいいことかわいいこと。
よく考えたら、リベザル視点で語られる薬屋も久しぶりな気がするし、そういう意味ではわりかし満足と言えるかも。特に第2話は読んでて楽しかった。

ただ、全体の要となるべきクルドの描き方がちと足りないなあというのはあって、
妖と人の関係性を描くということについては第4作「金糸雀が啼く夜」の出来には及んでいない気はする。
終盤の秋がかなり冷酷な素振りをしてるのにはちょっとドキドキさせられますな。

あまり楽しくなかった前作「蝉の羽」に比べるとはるかに持ち直した感じ。
シリーズ展開の深い部分に関わってきそうな謎のキャラクタも出てきたし。