砂糖菓子(ライトノベル)がなくなる前に

人気作品以外の「品切れ・重版未定」

出版社にとって書籍物というのは顧客に売ってお金にかえるもの=商品で、資産であり、会社の決算に関わり、税金にも影響を与えます。
一定以上のペースで売れ続ける人気の本も、ちっとも売れずに倉庫の片隅に積まれている本もそれは同じ。
在庫を抱えているだけでは課税対象ではないらしいのですが、売れないものを処分することで決算上では損失扱いとなり税金がおさえられるようです。
*1
在庫管理の問題もあります。倉庫のスペースは有限。取り扱う商品が無駄に多ければそれだけ維持/流通コストや営業の手間だってかかる。
売れる見込みのない本をいつまでも抱え続けるわけにはいかないのですね。
そうしたもろもろの事情のもと、出版社が涙を飲んで(あるいは「こんな本売れるわけねーよな、ははーん」という捨て鉢な笑いとともに)行うのが在庫の一斉処分──断裁です。

 断裁が決まった本の扱いは「版元品切れ」となり、入手するためには流通在庫*2や古本を探して回ることになります。
一度断裁された本は余程の事情*3がない限り「重版未定」のまま事実上の絶版になってしまう。
そして、一般武芸やジャンル小説よりも消化サイクルの速いライトノベルに至っては、刊行からわずか二年足らずで消えてしまう本だってあるのです!*4


春はお別れの季節です。

 先に述べた事情により、出版社は年度末(決算期)に向けて不良資産(売れない本)の整理にかかります。
三月決算の会社なら……二月くらいには断裁会議?なるものが行われていると見ていいんじゃないでしょうか。
人気があって巻を重ねた作品も完結から数年を経れば売れ行きは落ちていく。
売れなかった作品や短命に終わってしまったシリーズに加え”かつての人気作”がひっそりと市場から消えていく……。それがこの時期。


富士見ミステリー文庫

 ぎをらむさんが毎年行っている富士見ミステリー文庫の絶版調査を見るに、どうやら今年の春頃に思い切った在庫一掃が行われたことがわかります。
刊行点数を月1〜2点に絞り、既存シリーズの完結(第一部完結というカタチも含めて)がぼちぼちと続いてる現状から、レーベル自体の休刊を予感している方も少なくないはず。毎年12月に恒例としてきた創刊○周年フェアも今年はやらないようです。
…となると、来年の在庫整理でもいろいろと切られちゃうだろうなあ。*5 そうなる前に、この作品を入手しようよ/あの作品読んでくださいよー! と訴えたいのが実は今回の本題なのでした。


今すぐ入手しておきたいシリーズ

 ・田代裕彦「平井骸惚此中ニ有リ」


 第三回富士見ヤングミステリー大賞《大賞》の大正浪漫ミステリー。全五巻完結。
レーベルそのものがミステリーと揶揄されることも多い富士ミスにおいて、まっとうな”本格ミステリ”を展開していた希少なシリーズ。
とはいえ、その魅力は事件や推理部分だけじゃない。
主人公・河上太一と居候先である平井家の長女・涼さんとの凸凹恋愛模様。太一を「兄さま」と慕ってくれる次女・はつ子の健気な可愛らしさ。そして、骸惚先生の眼鏡美形っぷり!w
 凝った文体もあいまって、読めば読むほど味わい深い作品です。

キリサキ (富士見ミステリー文庫)

キリサキ (富士見ミステリー文庫)


 ・田代裕彦「キリサキ」


 「平井骸惚」とはうってかわって、ダークな空気とサスペンスで読ませる連続殺人鬼のお話。
ナヴィという異界の案内人が登場したり、主人公の魂が他者の体にはいりこんだりという特殊設定もあり、それをいかしたトリッキーな物語構成も読み所の一つ。
「キリサキ」が気に入ったら続編の「シナオシ」もどうぞ。

楓の剣! (富士見ミステリー文庫)

楓の剣! (富士見ミステリー文庫)


 ・かたやま和華「楓の剣!」


 B's-LOG文庫にて「お狐サマ」シリーズが好評のかたやま和華デビュー作。
花のお江都のラブコメ活劇。
「お狐サマ」の方はワタクシ未読でありますが、作品の雰囲気は近いらしい。
第三巻の刊行が2006年8月。これはまだ大丈夫かなあ? うーん、微妙。

バクト! (富士見ミステリー文庫)

バクト! (富士見ミステリー文庫)


 ・海冬レイジ「バクト!」


 凄腕賭博士の男子高校生・国定ヒロトと頼りない女教師・音無素子の繰り広げるギャンブル・ミステリー。全七巻完結。
人の良さと意思の弱さが災いしてギャンブル地獄へ落ちかけるお馬鹿さんに愛着を感じられるかどうかによって評価が分かれる。
ヒロトより七歳も年上なことを気にしてたりする素子ちゃん、かわいいと思うんだけどなー。
完結が2006年3月ということで、そろそろ押さえ時ではないかと。
っていうか、実はワタクシ自身が途中までしか買ってない&読んでないのだった!
か、買わねばっ(焦)

トキオカシ (富士見ミステリー文庫)

トキオカシ (富士見ミステリー文庫)


 ・萩原麻里「トキオカシ」


 時間にまつわる不思議な力と呪いを受けた時置師なる一族の物語。
読んだ人の評判は良く、二巻打ち切りに嘆きや怨嗟の声をちらほら見かけた作品。
でも逆に”二冊で終わり”な営業判断をくださざるをえないほど一巻の数字が悪かったと推測できるわけで、二巻も相当厳しかったんじゃなかろうかと考えると……二巻刊行から一年足らずでの断裁もありうるかも。


意外に息が長い?一冊完結型。

遠く6マイルの彼女 (富士見ミステリー文庫)

遠く6マイルの彼女 (富士見ミステリー文庫)

 ・ヤマグチノボル「遠く6マイルの彼女 」


 バイク好きの高校生と死んだ兄の元・彼女の再会から始まる物語。
ゼロの使い魔」で今をときめくヤマグチ先生の”古き良き青春恋愛小説”。
たまにはこんな落ち着いた作品を読むのも味わい深くていいものです。
日立三部作の一作目「描きかけのラブレター」もオススメ。

さよなら、いもうと。 (富士見ミステリー文庫)

さよなら、いもうと。 (富士見ミステリー文庫)


 ・新井輝「さよなら、いもうと。」


 交通事故で死んで、帰ってきた妹の願いは「お兄ちゃんと結婚したい」。
妹とのどこか奇妙で切ない関係、そこに母を加えた家族3人の絆。友人たちとの日常の中、どんな答えを出すべきなのか迷う主人公。
ROOM NO.1301」とは一味違う思春期ストーリーの傑作。

うれしの荘片恋ものがたり ひとつ、桜の下 (富士見ミステリー文庫)

うれしの荘片恋ものがたり ひとつ、桜の下 (富士見ミステリー文庫)


 ・岩久勝昭「うれしの荘片恋ものがたり」


 桜の下で出会った女の子に僕は恋をした…。
日々の中に紛れ込んだちょっとした不思議とその謎解きを積み重ね、最後にヒロインの抱えてる苦悩にケリをつける、日常の謎+青春ミステリーな一品。
残された資料から謎を読み解いていく部分もあって、富士ミス版「氷菓」といった趣もあり。
LOVE寄せもされてるよ?

空とタマ―Autumn Sky,Spring Fly (富士見ミステリー文庫)

空とタマ―Autumn Sky,Spring Fly (富士見ミステリー文庫)


 ・鈴木大輔「空とタマ」


ご愁傷さま二ノ宮くん」がテレビアニメ放映中ということもあって、これは残してもらえそうなんだけど、良作だし、ついでにご紹介。
家出した少年が避難先の倉庫で出会ったある人物。
倉庫の占有をめぐって争っていた二人はやがて互いの過去と内に抱える想いを語りはじめ…。
ほろ苦い後味と心を揺らす感動が待ってます。


*1:この項、コメント欄の指摘および識者さんのご意見を参考に訂正しました

*2:取次ぎやネット書店の倉庫、本屋さんの店頭に置いてある書籍のこと。

*3:映像/アニメ化で作家さん自体に確変かかったとか。

*4:「ロクメンダイス、」のことかーっ!!

*5:あくまで刊行時期や前回までの在庫状況から次に切られるおそれのありそうな作品を個人的に推測したものであり、実際どうなるかはわかりません