ゆずはらとしゆき(原作:海野十三) 「十八時の音楽浴 漆黒のアネット」 (ガガガ文庫)

著作権の切れた昭和初期の怪作・奇作の類をライトノベル的手法でリメイクするという試み──《跳訳》の第1弾。原作は海野十三
 妻を亡くし失意の日々を過ごしていた三流小説家の甲野八十助。街中ですれ違ったのは死んだはずの旧友だった!?「火葬国風景」。
音楽浴によって統制される小さな独裁国家・ミルキに起こる大騒動の顛末は……「十八時の音楽浴」。
 昭和初期の作家の中で一際”ハチャメチャっぷり”で名高い海野十三が元ネタで、しかも、ゆずはらとしゆき・著ということで注目していた一作。
いやー、面白かった! 期待に十二分に応えてくれる傑作でありました。
戦前小説の残り香漂う「火葬国風景」もさることながら、がらっと雰囲気を変えてくる「十八時の音楽浴」の面白さは格別。
箱庭世界、音楽による洗脳、人造人間、幼児性愛に同性愛といった奇怪で”いかがわしい”趣向の数々と、
美少女科学者コハクや気弱な大統領をはじめとしたキャラクタたちがかもし出すユーモラスな味わいが絶妙に絡み合う。
「あれよ、あれよ」ととんでもない方向へと転がっていく展開のやたらに楽しいこと楽しいこと。
ゆずはら氏、非常に良い仕事をしたんじゃないかなー。
これが受けるようなら、ガガガ文庫で「空想東京百景」の新作をっ! …なんて夢みてみたり。

本作にてゆずはら作品に興味を持たれた方は、とりあえず「試作品少女」
(感想はこちら)を読みませう。面白いよ。

十八時の音楽浴―漆黒のアネット (ガガガ文庫)

十八時の音楽浴―漆黒のアネット (ガガガ文庫)