「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」 桜庭一樹 (富士見ミステリー文庫)

海辺の田舎の街で出会った2人の少女。
1人は大切な兄と自分を守るために強くあろうとし、もう1人は生きていくために嘘の物語を身にまとう。
それは、絶望と悲劇が約束されたお話。

本編1ページめから頭を抱えてしまう。最初から破滅を覚悟して読まなければならない。
自らを人魚だと言いはる、虚飾にまみれた態度の内に残酷な汚染を身に刻まれ、
周囲を拒絶しながら、それでもなお誰かに向かってのばされた手。
理解できなくて、戸惑って、でも見捨てることはできなくて。
やっとその手を握りしめたときには、事態はもう取り返しのつかないことになっている。
何もかもが報われない。救いはない。
僕らは読み手は、待ち受ける悲劇に身をすくませながら、少女たちの苛立ちと無力感を、セカイに撃ち続ける砂糖菓子の弾丸を、ただ黙って身に受けるしかないのだった…。

読後に残る強烈な喪失感。最初から結末がわかっているのに、それでも気持ちは海の底へとずぶずぶずぶー。
桜庭さんの描くふわふわと不安定で頼りない少女の世界でなければ、わたしには最後まで読めなかっただろうと思う。
藻屑が身にまとった虚飾の痛々しさ、なぎさが見つめる”彼女を取り巻く世界”の描写がとても印象的でした。傑作。

それと、この作品、とある古典ミステリのモチーフを使ってます。P.87の ”****”という単語とP.179からの展開がまさにそう。
P.37の”**の弾丸”というのも作品のテーマに関連づけて引用されたネタですね。
知らない人のために一応作家名だけ明かしておくと、答えはディクスン・カーです。(**の弾丸のトリックはカーター・ディクスン名義の作品)
GOSICK」1作目に感じたカーっぽさはやっぱり気のせいじゃなかったんだなあ。