「悪魔のミカタ11 It/ザ・ワン」 うえお久光 (電撃文庫)

街が吸血鬼に襲われた。吸血鬼”ザ・ワン”の圧倒的なチカラの前に人間たちはあまりにも無力。
父と妹を守るために闘い始める小学五年生の少年の頼りは、かつて周囲に闘いを挑みそれに打ち勝った堂島コウについてのレポートのみ。
堂島コウがどう考えどう動き闘っていったか、三鷹昇は堂島コウの影を追いかけながら絶望的な状況の打開をはかっていく。
一方、事態の只中にいながらのほほんと過ごしていた舞原サクラの周囲にも不穏な影が漂いはじめる。

シリーズ11冊目にして、主要キャラの出番がかなり少ない番外編あるいは幕間編でありながら、単体エピソードとしては最高傑作。
これ凄いですよ。気がついたら街が吸血鬼だらけになっていたという序盤の怖いこと怖いこと。
ごく普通の少女がいきなり酷い目にあってしまうのもゴシックホラーっぽくていいし、
舞原サクラと友人たち3人のいちゃいちゃぶりは百合萌えだと言えなくもないし、
そして何より、三鷹少年が必死に考え頑張る姿は感動的で燃えずにはいられない。

吸血鬼のチカラは圧倒的。頼りになる大人はいない。リーダーとして他の子どもたちを引っ張っていかなければならないことのプレッシャー。
三鷹少年は”自分と同じ歳だった頃の堂島コウ”を心の頼りに、ときには非情に、ときには詭弁をふりかざし、自分自身が壊れていくことに怯えながら、それでも闘い続ける。
三鷹少年に感情移入しまくってしまくって、あまりにも絶望的な展開に歯噛みして。
そして、堂島コウを追いかけ続けた三鷹少年が、最後に辿りついたもの。その先にあった一片の希望。

舞原サクラの友人である鴨音木エレナ視点のパートで女の子たちのじゃれあいに萌えてみるもよし、
吸血鬼vs人間のホラーとして楽しむもよし、三鷹少年の健気さに感情移入するもよし。
後半には依花さんも出てくるのでシリーズファンも安心というか三鷹少年の必死さと舞原姉妹の脳天気さのあまりの温度の違いに笑ってしまうんだけど。
それにしてもシリーズ中11作目なんて読者を限定しそうなのが非常に惜しいですなあ。
ああ、こんな傑作なのに、超絶面白いのに、なんて勿体ない、もったいない。