「煉獄のエスクード RAINY DAY & DAY」 貴子潤一郎 (富士見ファンタジア文庫)

あちらの世界と人間界をつなぐゲート。その扉を封印あるいは解錠する力をもったレディ・キィを守る”エスクード”の一員となった薫。
襲い来る魔族との戦いの中で薫は、兄と慕う真澄、レディ・キィの宿命を担った少女ソフィア、そして、
1000年もの長きに渡りレディ・キィを守り続けてきた異端の女戦士・レイニーの真実を知る…。

ああ、うん、面白い。伝奇アクションな魅力がたっぷりつめこまれた設定の数々に、彼らの背負う業と悲しき物語。
読んでて胸が熱くなるし、良作であることは間違いない。
でも、なんかこう、傑作になりえそうな輝きが磨きぬかれないまま作品になってしまったようなもどかしさがあったりして。
いろんなものが一冊の中にがっつりつめこんであって、かなり密度の濃い物語に仕上がってはいるんだけど、
真澄の話もソフィアの話もレイニーの話ももっともっとふくらませられるんじゃないのーと思っちゃうんだよなあ。

12月のベロニカ」でも描いていた”背負う運命の重さ”と”生き様”を物語の根底に置き、
(「眠り姫」所蔵)「汝、信心深き者なれば」の”堕ちていく”感触と耽美小説的な妖艶さで物語を彩ってる感じがあって、両作品が好きな人なら特に楽しめそう。
それにしても、アルフェルム様エロすぎ!
いやー、レイニーやソフィアの物語も心をうつんだけど、真澄とアルフェルム様の印象が強烈すぎて思考があらぬ方向へ行きそうになっちゃったよー。
最近の富士見はエロどころか男色もOKなのか。そうか。
あと、薫は主人公のくせに地味すぎだ。レイニーや真澄に完全に食われてました。頑張れ薫。

既刊感想→http://www.big.or.jp/~pon/book/takanejun.htm

「リリアとトレイズ II そして二人は旅行へ行った(下)」 時雨沢恵一 (電撃文庫)

夏休みのバカンスのはずが陰謀劇に巻き込まれてしまったリリアとトレイズ
彼らの乗った飛行船に今また危機が…。

陰謀劇の種明かしの巻。
襲いかかる空軍戦闘機を相手に飛行船でどう生きのびるのか、
小芝居で相手の情報を引き出したり、不意の空中戦をしかけたりと大人を手玉にとるトレイズとリリアの機転が大変よろしい。
リリアがトレイズにわりと冷たかったりする理由がそんなところにあったのかーとか、
頼りになるところよりも寧ろ意外な欠点に好感度アップってなあたりは微笑ましかった。
大人になったヴィルの生き方に、いつまでも清廉潔白ではいられないのねという苦味があって、そのへんを描くために物語を次世代につなげたんだろうか。
でも、世の中の汚い部分は全部自分が引き受けるから好きな女の子にはできるだけ純真なままでいてもらいたい、
なんて男の子願望をトレイズも受け継いじゃってるのね。

前巻感想→http://d.hatena.ne.jp/kirisakineko/20050507#p1